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阪神タイガースバトルロワイアル 第二章

1 :代打名無し@実況は実況板で:04/11/06 11:38:24 ID:iBKLmE+f
前スレ

阪神タイガースバトルロワイアル 
http://ex7.2ch.net/test/read.cgi/base/1094306095/l50

177 :924(4/4):04/11/25 23:14:33 ID:bQFDXIZQ
「ごめんなさい」
涙とともに呟くように言った。無残に殺され死体となった萱島に
おぞましさしか感じなかったことがひどく申し訳なく思えたのだ。
今も恐れがないではないが、悲しみの方が強い。それは彼ばかりでなく
加害者である太陽に対しても同じだった。
(太陽さんは、もう、元に戻らないのかな)

二人ともファームで一緒に頑張ってきた先輩だというのに、小宮山の
眼前で殺し合ったのだ。いや、二人だけではない。昨日から今日に
かけて自分の知らない所でどれだけの惨劇が繰り広げられたことか。
小宮山は静かに涙を流し続けた。

どのくらい時間がたったのか、長いようにも短いようにも思われた。
小宮山はせめて人目につかぬようにと、萱島の遺体を引きずり、
近くの潅木の下に運んだ。小宮山より軽いはずのその身体は
ずっしりと重く冷たく、明らかに生きた人間とは違っていた。
(本当に、本当に萱島さんは死んでしまったんだ)
また涙が溢れてきた。移動を終えると、小宮山は帽子を脱いで
脇にはさみ、萱島に向かって胸の前でそっと手を合わせた。

帽子をかぶり直すと小宮山は踵を返し、歩き出した。この付近は
禁止エリアとその予定地からは外れており、無理に移動する必要は
ない。下手に動けば、生者であれ死者であれ誰かに遭遇する
可能性もある。それでも、ここに居続けることが耐えがたかった。
(何があっても自分を見失わないように――)
小宮山は心の中で繰り返しつつ、森を後にした。

【残り40人】

178 :代打名無し@実況は実況板で:04/11/26 11:05:43 ID:LgkSNIgx
泣き虫だけど強い子のバンビがんばれ。

179 :代打名無し@実況は実況板で:04/11/26 13:47:16 ID:7gJzqeUp
小宮山、健気にがんばれ
親父さんはリアルですげー怖いらしいね

180 :代打名無し@実況は実況板で:04/11/26 21:28:48 ID:hTz1zDcL
小宮山の誕生日だから小宮山主人公だったのかな


181 :代打名無し@実況は実況板で:04/11/27 02:43:57 ID:zshK42yu
おお!そうなのかも

182 :代打名無し@清原獲得反対:04/11/28 14:49:39 ID:V1KULD1a
age

183 :515(1/4):04/11/29 16:26:30 ID:hvnAq+aM
>>177

30.サバイバー

正午を過ぎ、しんと冷えていた山の空気もいくらか暖まっている。
それでも林威助(背番号38)は震えていた。
涙を流したくない。様々な感情が言い表す言葉もないほど極まり、絡み
合っていたが、泣くことだけはしたくなかった。泣けば涙とともに今のこの
思いさえ外へ流れ出て消え、そうしたら全てがどうでもよく思えてしまい
そうな気がしていた。
こうした状況―――生き残りをかけたサバイバルゲームにおいて、最も
危険とされるのは弱気になること、楽になりたいと願うこと、そして自暴
自棄になることだ。根底にあるのが怒りでも悲しみでも何でもいい、とに
かく現状に立ち向かうのだという強い気持ちを持ち続けなければ、自滅
する。
そうして全部を飲み込むと、意思とは無関係に肩が震え、喉が引きつれ
るのだった。制御し切れない心の深い部分がそうさせているのかもしれ
ない。
林自身にも把握することが難しいその部分には、たくさんの顔が浮かび
上がって渦を巻いていた。次々と死んでいく仲間達の顔。中村泰広、
上坂太一郎、萱島大介―――刺激し合い、励まし合い、あの最高の
舞台に上がって活躍することを誓い合い、ともに目指した仲間が死んで
いく。その顔が、目にしたわけでもない死に顔が、林をぐらぐらと揺さぶる。
林は岩の上に広げた地図と名簿を見下ろし、名簿の余白にボールペンを
突き立ててめちゃくちゃに動かした。黒い線が幾重にも重なり、いびつな
形の黒い丸ができ上がる。なおも力任せに書き殴ると、岩のくぼみに引っ
かかったペン先が紙を裂いた。
「……もう」
嫌だ。もう嫌だ。こんなのは嫌だ。

184 :515(2/4):04/11/29 16:27:04 ID:hvnAq+aM
口をついて出そうになった言葉を慌てて飲み下し、二度と出てくるなと
腹を抱えてうずくまる。
―――生きる。
必ず生きて帰るんだ。もう媽媽(マーマ)を悲しませるわけにはいかない
のだから。
強く、強く思え。生きると。決して死なないと。
眉間に力を入れて目を開くと、じわりと活力が湧いてきた気になった。
大きく息を吸い込むと、澄んだ空気が体の隅々まで行き渡って癒して
くれ、耳を澄ますと、すぐそばを流れる川のせせらぎが心を落ち着けて
くれる。
きっと何か方法があるはずだ。ここから抜け出す方法が。人間の作った
システムなら必ずどこかに穴がある。脱出さえなれば、まだ生きている
者達を救うことも容易だ。
林は岩陰から這い出し、川面に手を触れた。冷たい。底の小石が綺麗に
見える。澄み切ったその水を顔に浴びせると目や鼻の奥の熱が冷めて
凝固し、腹の底の方に下っていっておとなしくなった。
悲観的にならない。希望を失わない。自分を見失わない。それでいい。
―――生きてさえいれば何とかなる。
理不尽な争いの中で死んでいった仲間の無念も何もかも、全て引き受け
生き抜いてみせる。
そうとなれば、長期戦も見越して水や食糧を節約しなければいけない。
デイパックには菓子パンが3つと、2リットルのミネラルウォーターが1本
あるだけだ。林は川の水で腹を膨らませ、岩陰に戻って食事を取った。食
べ物を口にするのはどれほどぶりだろう。クリームパンがこんなにも美味い
ものだとは思わなかった。
今はこれで終わり、と自分に言い聞かせて三口目をかじりつこうとし、林は
ふと視線を移した。視界の隅に何か―――誰かが侵入した気がする。
木々がうまい具合に前後して生え、こちらからは覗ける隙間のない向こう
側を移動しているようで、姿はなかなか確認できない。

185 :515(3/4):04/11/29 16:28:16 ID:hvnAq+aM
袋が音を立てないようパンをそっと地面に置き、林はデイパックから取り
出した白木の棒をベルトの背中側に差し込んだ。
もちろん攻撃するつもりはない(相手がどんな目的を持った人物であれ、
林にとっては敬愛する仲間の一人には違いないのだ)が、万が一反撃
が必要になった時のために備えておかなければならない。
―――『備えあれば憂いなし』だっけ?
麺棒ごときが『備え』になるかどうかは置いておくとして。

人がいるのは確かのようだ。土や落ち葉を踏みしめる音がやけに大きく
聞こえる。警戒心がないのだろうか。わざと音を立てているのだろうか。
その足音は右方からだんだん近付いてき、それにつれて対象を見る角
度も変化して姿を確認できるようになってきた。
同じユニフォームを着ている(それはそうだ。ここには選手しかいない
そうだし、自由に出歩けると思われる監督達もユニフォーム姿である)。
体つきはいかついが上背は際立ってはいない。胸の番号は―――4。
いや、14。アリアスだ。
アリアスはなぜか両手を挙げて歩いている。それは銃を突きつけられた
時などにとるホールドアップのポーズとしか見えないものだった。
どういうことだろう。何者かに脅され歩かされているのか。しかし他に人
影らしいものは見当たらない。
林はさらに身を小さくして岩に隠れ、相手の反応を探るために、映画や
ドラマによくあるのを真似て小石をアリアスに向かって投げた。木に跳ね
返り、コンと気持ちのいい音が辺りに響く。
アリアスの足が止まった。木々の隙間から見える限りで判断するには、
音のした方を見ているようだ。つまり林の潜む岩陰の方を。
―――アホ!
失敗した。自分の正面に相手がいるのにそこへ石を投げ込んでどうする。
林は慌ててデイパックを取り、岩陰から飛び出した。幸いなことに背後の
川はすねの辺りまでの浅さで幅も広くなく、流れが緩やかだ。そこへ
突っ込んで対岸に渡った。

186 :515(4/4):04/11/29 16:32:58 ID:hvnAq+aM

―――『逃げるが勝ち』ってこういう時に使うのかな。
アリアスの足との勝負なら、この状況では膝が多少不安な自分でも、下手
をしなければ勝てるだろう。しかし、
「待ってくれ!」
そのまま勝利を目指そうとした足に悲痛な声が突き刺さり、がっちりと
地面に縫い止めた。
背後の男は『プリーズ』と言っている。
林は英語に堪能というわけではなかったが、簡単な日常会話程度なら
理解できた。アリアスは、自分は何もしない、君に聞きたいことがある、
頼むから行かないでくれ、と平易な英単語を並べ叫んでいる。
振り返ると、川の向こうにやはり両手を挙げているアリアスがいた。


【残り40人】

187 :515:04/11/29 16:34:12 ID:hvnAq+aM
>>123氏他、地図作成に関わられた皆さん、遅くなりましたが
乙&ありがとうございました
地理的なものに弱いので大変助かりました
今後これを活かしていけるよう精進します

188 :代打名無し@実況は実況板で:04/11/29 21:50:40 ID:n3F6kROG
相変わらず丁寧な文。GJ

189 :515(1/6):04/11/30 10:00:55 ID:L60/i7P+
>>186

31.マーター

かじりかけのクリームパンをデイパックに大事にしまい込み、風にまくられた
地図を広げ直す。(戻ってきてよかった。危うくパンも地図も放り出したままで
逃げ出すところだった)
「ここはどこ?」
自分の地図とボールペンを手にしたアリアスがゆっくりと丁寧な発音で言う。
「えっと、川……がここだから、たぶんこの辺です」
川の線をペンの尻で辿り、G-4を差し示した。川はG-5とG-4の境目辺りを
源としてG-4をまたぎ、H-4をかすめてH-3にある池(湖か沼かもしれない。
川にしても、名までは記されていなかった)に続いている。林の印象では、
現在地はかなりの上流に思えた。
「禁止エリアは?」
「こことここはもう入れません。ここの、F-2が3時から」
「3時か。近いな……」
アリアスは口中でひとりごち、林の地図を覗き込んで自分の地図に禁止
エリアを書き写した。なぜか最後にF-2を黒い線で丸く囲う。
「F-2、G-7、I-2。これから禁止になるのはこの三ヵ所だけ?」
「はい」
「そう。アリガトウ」
日本語で礼を言われ、林も思わず日本語で「どういたしまして」と返した。
おかしな感じだ。二人とも外国人なのに。林がちょっと笑ってしまうと、アリ
アスもつられたように微笑む。優しい顔だった。あのまま逃げなくて本当に
よかったと思う。
アリアスは定時放送の内容が理解できず困っていたのだそうだ。林も、
岡田監督には悪いが、声がこもっていて聞き取りづらく少々苦労したから
アリアスの焦燥に共感できた。

190 :515(2/6):04/11/30 10:01:29 ID:L60/i7P+
それにしても―――アリアスのように言葉のわからない外国人選手まで
参加させるとは、どういうことだろう。
確かウィリアムス(背番号54)もいたはずだが、彼はどうしているのか。
アリアスのように無防備に歩き回り(思えば、危険な禁止エリアを知る
目的で人を探してむやみに歩き回るというのは、誰かと遭遇して攻撃さ
れる可能性、既に立ち入れない区域に踏み込んでしまう可能性を考え
ると、あまりに危険が過ぎるのではないだろうか?)、誰かを探していた
りするのだろうか。
「ウィリアムスには会いましたか?」
心配になってそう問うと、アリアスはすっと表情をなくして首を振り、ここ
にいない者の姿を探すように遠い視線を揺らす。
「ジェフに会えれば一番よかったんだが……。それでも君に会えたんだ
から俺はラッキーだ。神にも感謝しないとね。本当にありがとう」
アリアスは胸の十字架に触れて笑い、折り畳んだ地図をユニフォームの
ポケットに突っ込んで立ち上がった。そして傍らに置いていたデイパックを
掲げて見せる。
「これは親切にしてくれたお礼だよ」
ポンとデイパックをひとつ叩き、茶目っ気たっぷりにウインクした。その
意味が、それをくれるという意味がわからず、林はデイパックを見つめて
数秒を過ごすことになった。
アリアスが林のそばに置いたデイパックと、二度目のアリガトウを残して
去ろうとする頃に、やっと口だけが動き出す。
「ちょっと待って」
とっさに出た制止の言葉は日本語だったが、アリアスはきびすを返し
かけた格好で動きを止めた。
「どう……どうするんですか? これがなかったら困るでしょう」
アリアスが持っているもの、身に付けているものと言えば、林の見た限り
では尻のポケットの地図と首から下げた金の十字架くらいだ。ボールペン
でさえ、ついさっきデイパックの中に戻していた。きっと水も食糧も―――
武器も、この中に入ったままだ。それを置いていくなんて。

191 :515(3/6):04/11/30 10:01:53 ID:L60/i7P+
「俺にはもう必要がないから」
「どうして? 何をするつもりですか」
嫌な感覚が背中の辺りを這い始める。
どうして必要ないんだ。どうして―――どうしてここへ来た?
そうだ、危険だ。禁止エリアという危険を知るために動き回る(しかも丸腰
でだ)危険を冒すなんて、矛盾しているだろう。それもわからないほど混乱
しているようには見受けられないアリアスの静かな表情を見上げ、林は
うまく出てこない言葉を何とか形にしたくて口を開けるのだが、ぱくぱくと
空振るばかりで役に立たない。
危険だ。危険だが―――危険だと考えていなかったとしたら?
林は生きたい。死ねない。だからこの首についた忌まわしい装置が爆発
することも、誰かと行き会って戦闘になることも、林にとっては危険だ。
その逆なら―――?
「これは自殺になるのかな」
そう呟いたアリアスの顔は、陽光による陰影のせいだけでなく暗く見えた。
「君はどう思う? やはり主はお許しにならないだろうか」

アリアスの神は、殺生はもちろんのこと自らの命を絶つことも禁じている。
しかしこの狂った現実の中で、その戒めに忠実に従うことは容易くない。
悪魔の誘惑は多々ある。まさに試練だ。信仰を試されている。
敬虔なる男は、当然ながら殺人の罪は決して犯さないと決めたそうだ。
のみならず、誰かの手にかかることも、それは相手の罪になってしまう
ためにできないことだ―――と言う。相手もまた被害者であり、苦楽を
ともにした仲間であるから、神に裁かれ地獄へ送られるようなことには
したくないのだ、と。
だから誰も殺さず、誰にも殺されないため、自殺ではない自殺法を探し、
首輪を爆発させることを―――間接的な自殺を選択した。
キリスト教の信仰とはそうしたものなのだろうか。林にはわからない。
アリアスは神を欺こうとしている。それは罪ではないのか?
林が聞いていても、どこか足りなかったり矛盾が感じられる考えだった。

192 :515(4/6):04/11/30 10:08:50 ID:L60/i7P+
だからアリアスはおかしくなってしまったのだ、と断じれば簡単だったが、
林に通じる言葉を探しながらとつとつと語る姿の前にはそれも無理だった。
アリアスはどこまでも静かで、真摯だ。そして今もなお苦悩している。
一人きりでずっと考えていたのだろう。天地もわからない闇の中をさまよう
ような気分だったろう。
他人に話せたことでいくらか気が楽になったようで、アリアスはひとしきり
話し終えたところで息をついた。
「言い訳して逃げてるだけか……」
寂しそうに微笑む横顔に、林は胸が苦しくなってうつむく。
苦しい。そして腹立たしい。なぜアリアスが苦しまなければならない?
こんなゲームのせいだ。こんなゲームを許す奴のせいだ。そうだろう?
神が本当にいるなら、天と地と、その狭間の全てを創造したのが神である
なら、この殺人ゲームを許したのもまた神ではないのか。懊悩する子らを
見下ろし、楽しんでいるのではないのか。
「……そんな奴、信じるなよ」
他人の信仰を否定してはいけない。信心深い者が多く、多宗教でもある
国に生まれ育った林はそれをよく心得ていたが、自分自身も驚くほどの
正体不明の激情は止められるものではなかった。
「あんたを苦しめてるのは神様じゃないか。苦しめるだけ苦しめといて助け
てもくれない、そんな神様なら、そんな神様なんか、捨てればいいだろ!」
自分の発するセリフに煽られ、最後には声を荒げていた。
そうして吐き出せば我に返るもので、アリアスの驚いたような顔をちらりと
確認した林は、ばつが悪くなって抱えた膝に顔を伏せた。救いは、つい口
から出たのが英語でも日本語でもなく、祖国の言葉だったことか。
「すみません」
膝の間に鼻を埋めた格好のまま謝ると、アリアスの手の平が林の頭を
柔らかく叩いた。そう促されて顔を上げれば、やはり優しい顔で笑うアリ
アスがいる。
「……僕は……あなたに生きて欲しいです」
殺さず、殺されず、生きて帰る。それでいいはずだ。死ぬことなどない。
こんなに優しい人が死ぬことなんてない。

193 :515(5/6):04/11/30 10:09:06 ID:L60/i7P+
林は自分の話をした。説得できるかどうかは自信がなかったが、話を
聞かせてもらった代わりに自分の話もしておくべきだと思った。
日本へ行けと言ったのは父だったこと。日本に来る直前にその父が
亡くなったこと。それでも母は悲しむ姿を見せず、また苦しむ姿も見せ
ず、異国にいる息子のためにたくさん働いて仕送りを続けてくれたこと。
両親を誰より尊敬していること、大好きだということ。
「媽媽(マーマ)を―――お母さんを、悲しませたくないんです」
家族を失う悲しみも辛さも、母はもう今以上に知る必要はない。だから
死なない。母の未来には、幸福以外はあるべきでない。その幸福は、
自分が嫌というほど与えてやるんだ。だから生きる。
「あなたにも家族がいるでしょう。あなたの神は、家族を大切にしろとは
言わないんですか?」
林は天使のように愛らしい子供を思い出していた。父が死んでしまったら
あの子はどうなるだろう。あの子の母は? それは林自身よく知っている。
自らの命を絶つことは、人間だけが持つ権利かもしれない。しかしその
前に、生きることが生物としての義務であり、死によって悲しむ者のいる
人間の果たすべき責務だ。それは神が決めたのでも誰が決めたのでも
なく、そういう風になっている。
だから―――生きたいとか生きた方がいいとかではない。
「僕らは生きなければいけないんです」
アリアスは涙を流していた。
目の周りも鼻も、顔中が赤くなっていてみっともない。それでも宗教画の
ような美しさを、林は見た。
―――汝の隣人を愛せ
―――汝の敵を愛せ
林でも知っている、聖書に載っているという有名な文句が頭に浮かんだ。
きっとキリスト教というのは愛を教えているのだろう。
今アリアスは家族を思い、その愛の深さから泣いている。
愛は美しい。だからアリアスが美しく見えた。
彼と彼の神を冒涜する暴言を吐いたことが悔やまれた。

194 :515(6/6):04/11/30 10:13:07 ID:L60/i7P+
頬を拭ったせいで少し濡れている手に握手を求められる。手を重ねると
強い力が返ってき、林にはそれが生命力のように感じられて安堵した。
「俺は誰かに止めて欲しかったんだと思う。きっと、本当は生きたかった
んだ。ありがとう。君に会えてよかったよ、リン。本当に……本当に」
ほっとして、嬉しくて、腹の方から温かいものがふわふわと上がってきて
目頭を熱くする。嬉し涙などしばらく忘れていた。そういう涙もあるのだった。
少しくらい―――そう思い、目のふちに掴まっている水滴を送り出して
やろうとまぶたを下ろす。その一瞬の暗闇に顔が映った。
―――媽媽……泣いてる? どうして?
目を開けると奇妙な音がした。雲の影でも差したか、目を閉じる前より
視界が暗い。向かい合い座っているアリアスの体が右へ傾ぐ。頬を
伝ったしずくがあごの先に留まって揺れているのが感触でわかる。
何だ? 何が―――
「大丈夫?」
日本語。よく知っている声。高い位置から聞こえる。アリアスは岩に寄り
かかり、斜めになっている。血が―――血が
「リン? リンさん。リンちゃん。リンリーン。おーい」
目の前で手の平がひらひら。あごの先のしずくが落ちた。目の前の、
手の平の、指の先の、赤い色は血。アリアスの血だ。
「は」
『ひ』だったかもしれないし『へ』だったかもしれない。喉の奥から空気が
飛び出て、声にならない音を作った。
アリアスの目は開いているから、寝ているわけじゃない。だけど林の
知らないところを見ている。こちらを向いた左の側頭部は、何だかよく
わからない状態になっている。そこを穿った大きな石は、
「マジで大丈夫?」
藤原通(背番号2)の片腕に抱えられていた。

―――生きると、言ってくれたのに


【残り39人】

195 :代打名無し@実況は実況板で:04/11/30 11:28:46 ID:y1VoPymP
藤原め、なすびのくせになんてことしやがる

196 :代打名無し@実況は実況板で:04/11/30 15:55:20 ID:OZ/vrXkX
515さん相変わらず乙です。

でも・・・ジョージィィィー!。・゚・(ノД`)・゚・。イキルッテイッタノニー!!

197 :代打名無し@実況は実況板で:04/11/30 15:59:00 ID:s9d9O97q
藤原はリンを助けようとしたのかな?
でもそれが勘違いだった・・・?

198 :代打名無し@実況は実況板で:04/11/30 16:49:59 ID:rxTy0aKC
515氏乙。
泣いてしまいますた・・・アリアス・・・

199 :代打名無し@実況は実況板で:04/11/30 17:18:27 ID:STDu1NqS
・゚・(つД`)・゚・
515氏うまいっす。

200 :代打名無し@実況は実況板で:04/11/30 20:31:04 ID:UQXH0t/a
うまい・・・うますぎる。すげー切ないよ・・

201 :代打名無し@実況は実況板で:04/12/01 03:30:47 ID:Q9PIgH58
さすが515氏!!
あなたの文章にはいつも感嘆させられております。
ジョージ…うううジョージィィィィィ…。゜(゚´Д`゚)゜。ウァァァン

202 :代打名無し@実況は実況板で:04/12/01 20:31:25 ID:qoc1J/nt
保管庫さんのファイルに直接リンクしていいかわからんかったんで
ただのリストになったんだけど、よかったらドゾー。
リレー作者別もくじと選手別もくじ
http://www.geocities.jp/hoge_22/writer.html
自分用に作ったモンだからちょっと見難いかもしれん。

ジョージ・・・帰ってこいよー・・・。

203 :代打名無し@実況は実況板で:04/12/02 00:38:12 ID:mS87OubK
わかりやすい!!ありがとう!

204 :保管庫”管理”人:04/12/02 01:50:08 ID:p+Q5nzOe
GJです!見やすいです。
直接リンク貼ってもらっても全然構わないですよー。
こういうのは保管庫のほうで作った方がいいのかなぁ…?
何か要望などあれば言ってもらえると嬉しいです。

205 :代打名無し@実況は実況板で:04/12/02 07:47:33 ID:fSvZu1OK
余力があればおながいします

206 :202:04/12/02 17:58:08 ID:EdgK4z3E
>>204
いつも乙です。
作者別・選手別のインデックスが保管庫にあったらな と思ってました。
でも保管庫さんに何もかもしてもらうのもなー と自分で作ってみた次第。
許可もらえたんで>>202のリストから直接読めるようにリンクさせてもらいました。
>>202に保管庫からリンクしてもらうのでもいいし
ページまるごとコピーして持っていってもらうのでもいいし
内容だけコピペしてレイアウトはそっちでやってもらうのでもいいし
何でもいいんで、保管庫にこういうインデックスを設けてもらえたら嬉しいです。
勿論無理にとは言いません。気が向いたらお願いします。

207 :代打名無し@実況は実況板で:04/12/03 02:45:51 ID:5hemkeQD
ジョージ・゚・(つД`)・゚・
せめて、せめて・・・

208 :542(1/6):04/12/04 03:00:07 ID:SBJaKVq+
32.予感

「あー、すっかり遅くなっちゃったなぁ」
ごちながら、腕にはめたクラシカルな時計の文字盤に視線を落とした。
午後1時半を回っている。昼時をちょっと過ぎたという時間帯だろうか。
朝のローカル番組の収録を終えた後、色々と打ち合わせなどしているうちに
時間が過ぎてしまったようだ。今日は早めに帰って、資料を読まなければ
いけないと思っていたのに。
放送局の地下駐車場は薄暗く、乾いて冷えたコンクリートが底冷えを誘う中に
こつん、こつん、と自分の靴音が響いた。靴はいつもピカピカにしておかねば
気が済まないタチだ。身嗜みとしては勿論の事、綺麗に磨いた靴を履くと
すっきりしたいい気持ちになるし、仕事も気分よくこなせるような気になる。
そういうわけで、毎晩夕食を食べた後、妻が台所で洗い物などしている間に
玄関で靴を磨くのが彼の日課だった。
薄手のコートに包んだ身体を震わせ、車のドアを開ける。隙間から仄かに
漂う芳香剤の柑橘の香りに安心しながら、身を滑り込ませてエンジンをかけ、
真っ先に暖房をつけて―――スイッチから指先が離れた瞬間、携帯が震えた。
ポケットから流れてきた軽快なナンバーは『君の瞳に恋してる』。いつ聴いても
いい曲だ。これを聴くと色々な事を思い出す。甲子園のマウンドに立つ自分。
ロジンバックの感触。怖いのにどこかわくわくする、不思議な緊張感。
かつて暗黒時代の中にありながら『セ・リーグ最強の中継ぎ部隊』と呼ばれた
阪神リリーフ陣の要、伊藤敦規(元背番号47)は携帯電話をぱくんと開いて
ディスプレイを確認し、少し笑うような表情をしてから耳元に当てた。
「もしもし、遠山?」
『あ、もしもしアツさん。遠山です。今ちょっといいですか?』
電話の相手はその阪神での元同僚、遠山奨志(元背番号52)だった。
いつもは割とのんびりとしている彼なのだが、何故か今日は落ちつかない、
そわそわした声をしている。
「どしたの、なんかあった?」
『それが……』

209 :542(2/6):04/12/04 03:00:53 ID:SBJaKVq+
問いに対し、遠山は微妙に声を低めた。彼のややぽっちゃりした顔が、
難しく顰められている様が目に浮かぶ。何かを言い出そうとしているのに
上手く言い出せない、そんな数秒の沈黙に伊藤は気を利かせる。
「今、車の中だから。周りに誰もいないよ」
『あっ、そうですか』
「何か話でもあるの?」
途端にほっとしたような声音になった遠山だが、緊張感は未だ拭えていない。
水を向けてやると、彼は電波の向こうで一つ咳払いをしたようだった。
この男は割と形式に拘るタイプで、何かする時にやたらと形から入りたがる。
まぁそこが長所でもあるのだが。そう思ったところで漸く彼は口を開いた。
『あのね、アツさん。アツさんとこの前一緒にメシ食いに行った時、あの話
 したでしょ?ほら、阪神の来季のコーチ就任要請の話』
「あぁ、その話―――あ!そっか、そう言えばあの時、お前オレの車ん中に
 ハンカチ忘れてったんだよな?大丈夫、心配しなくても持って帰って
 洗濯しといたし、今度会った時にでも……」
『あ、有難うございま―――って、違います違います!アツさん、そんな話じゃ
 ないんですよ。そんなアホな用事で掛けたんじゃありません』
何だよそれー、アホって何だよアホって。アイロンまでちゃーんと掛けて
やったのにさぁ、などとぶーたれる伊藤に、遠山は深く嘆息して言った。
アツさん、真面目な話なんですよ、真面目な話。
「ふーん。で、そのマジメな話って何?」
現役時代からのトレードマークだった長い髪をわしゃわしゃと弄りながら、
シートの上で一つ伸びをする。勿体つけて一層トーンを落とした遠山に、
芝居がかってるなぁと茶々を入れかけた、のだが。
『実はですね。昨日、球団からいきなり電話が掛かってきて、「申し訳ない
 けれどコーチの話はなかった事にして下さい」って言われたんですよ』
「……は?」
思わず、間の抜けた声を出してしまった。
突拍子も無い話題に返す言葉を見つけられないでいると、耳元で聴こえる
ぐっと低くなった声が、どう思います?と続けて訊ねてくる。

210 :542(3/6):04/12/04 03:02:01 ID:SBJaKVq+
(何だ、そりゃ)
話が殆どまとまっていたところに、唐突な断りの電話。いかにも失礼な話だ。
社会一般の認識からするとかなり非常識なのではなかろうか。自分なんて、
引退してから家業を継ぐ為に必死に覚えてきた仕事に戻らない覚悟で
受けた話なのに。
「それで?それだけを愚痴りに電話してきたんじゃないんでしょ?」
『相変わらず察しがいいですね。そうなんです。最初は何か一方的過ぎて
 面食らっちゃったんですけど、よくよく考えてみると電話を入れてきた人が
 変な感じだったな、って。とにかく「後ほど正式にご連絡致しますので」の
 一点張りで、要領得ないし。それで腹立ったんだけど、直接球団事務所に
 行ってみたんです』
「そしたら?」
『なーんかね、様子が変なんですよ。職員が行ったり来たりでバタバタ。
 段ボール箱一杯の書類とかが運び出されたりして、大掃除か家宅捜索でも
 してるのかって思うくらい。挙句、事務所に入ろうとしたら入口で止められて、
 「申し訳ありません。お話は後日という事で」ですよ?』
遠山自身も困惑しているのだろう。声が若干ウンザリした響きを帯びている。
うんうんと相槌を打ってやり、話の先を促した。
『久万オーナーが亡くなって、新しい人がオーナーになったでしょ?それと
 関係があるのかも知れないと思って、事務所の人にその事を訊いたら
 反応が微妙に変わったんですよ!それでも何も話しちゃくれなかったけど』
まくし立てる遠山に対し、押し黙った伊藤の頭には疑問符が飛びっ放しだ。
今から別の人間に就任を打診するのは幾ら何でも遅すぎやしないだろうか。
遠山に問題があるとは思えないし、様子が変だという球団の動きも気になる。
突然の就任要請の白紙撤回、球団事務所の異変、曖昧な職員の態度。
加えて、オーナーの代替わりと職員の不審な反応。
(キナ臭いなぁ)
なかなかどうして、怪しいキーワードのオンパレードだ。特に今年のような
一大騒動が球界を襲った後とあっては、何事も疑ってかかるにしくはない。

211 :542(4/6):04/12/04 03:14:16 ID:SBJaKVq+
『で、どうも様子がおかしいなと思って、葛西に電話してみました』
「……あいつ、何か言ってた?」
『それが繋がらないんです。何回掛けても、電源が入ってないか電波が
 届かないってアナウンスが流れて。自宅の方も誰も出ないし』
その葛西稔(元背番号13)は二軍コーチを務めている。忙しい身だろうから
単にタイミングが悪かっただけかも知れない。しかし遠山は言う。
『球団に「選手やコーチ陣は今どこで何をしているんですか」って訊いても
 「お答え出来ません」だし。MBSの担当に訊いてみても解らないって言うから
 これは何かあるのかも知れないな、って思ったんです』
「うん、それで?」
『葛西がダメならって思って片っ端から電話掛けました。和田さん八木さん、
 藪、矢野、桧山に今岡に福原に吉野……全員、ダメ。藪と矢野と福原は
 奥さんに連絡ついたんだけど、皆ダンナから連絡がないって言ってました。
 昨日の朝に練習で集合掛けられて出て行って以来、全く音沙汰ナシ。
 でね、アツさん。それだけじゃないんですよ』
「え、まだ続くの」
『もうちょっとですから―――それでね、その八木さんから今朝早くに
 電話が掛かってきてたみたいで、留守電が入ってました。八木さんも何か
 変だって言ってるんです。具体的な事は言ってなかったんですけど、
 とにかくおかしい、何かあるって。しかも、「もし自分で駄目だったら
 宜しく頼みたいけど無理だと思ったら忘れてくれ」とか、そんな変な事も
 言ってました』

212 :542(5/6):04/12/04 03:15:20 ID:SBJaKVq+
そこまで一気に喋ってやっと、これでおしまいです、と遠山が締めくくる。
―――確かにおかしな話だ。
はっきりとはしないが、遠山の語ったストーリーには不自然な点が多い。
しかしあやふやな事柄が多いだけに、どこから手をつければ良いのか
見当がつかないのも事実だ。結局、伊藤は端的な感想を述べる。
「何か、変だね」
『でしょ?オーバーホールもしないまま主力選手まで帯同して練習ってのも
 変わってるし、八木さんも何を言いたかったのかよく解らないんですよ。
 大体、球団側も今になって話を反故にするってのはどういうつもりなんだか。
 ―――ねえ、アツさん。何か、随分おかしな事ばかり起きてる気がしない?』
おかしいどころの騒ぎではない。選手や関係者とはまるっきりの音信不通、
八木は妙なメッセージを残したまま連絡が取れなくなった。
伊藤は嫌な予感が沸いてくるのを抑える事が出来ない。
「どういう事なの、それ……」
『絶対、何かあったに違いないよアツさん。何か、何かあったんだよ』
「おかしいね、絶対おかしいよ」
『球団事務所の様子もそうだし、何か普通じゃないんですよ。
 ダイエーみたいな親会社関連の身売り云々じゃないとは思うんだけど、
 寧ろもっと違う、何か変な事が起きてるような気がして』
少し間を置いて遠山は呟く。アツさん、これって一体どういう事なんだろう?
何の前兆なんだろう?

213 :542(6/6):04/12/04 03:15:57 ID:SBJaKVq+
奇妙な、狐につままれたような気持ちになる。
さしあたり、遠山と直接会って話す約束を取り付け、伊藤は電話を切った。
自分が何を出来るのかは解らないし、単なる杞憂かも知れない。それでも
うち捨てておくわけには行かなかった。自分の性分からして、苦楽を共にした
仲間たちが苦しい思いをしている、或いはするのだとしたら、黙って見ている
事など出来やしないだろう。
電話を切ってすぐ、それを待っていたかのように再び着信音が鳴り響いた。
今度は『カンナ八号線』。『君の瞳に恋してる』より以前にテーマ曲にしていた
ものだ。いまいちノリの悪い曲だったせいか、リリーフに出て行く時に外野の
新庄や坪井に笑われまくった覚えがある。―――懐かしい思い出だ。
暗黒時代と揶揄されたあの頃は、和田や八木が現役で藪がエースだった。
桧山や坪井、新庄、今岡たちは未だ若く、遠山、弓長、葛西ら、自分を含めた
中継ぎ陣は盤石の呼び声が高かった。
新庄も坪井も、もう阪神にはいない。昔の話だ。伊藤がいた頃とは随分と
変わったものだ。当たり前だと言えば確かにそうだろう。だがそこに伊藤は
一抹の寂しさを感じてしまう。それがいいのか悪いのかは、また別の問題だ。
伊藤は息を吐いて携帯の画面を見た。鮮やかに光っている。その表示が。

『阪神タイガース 球団事務所』

ぞくり。
首筋に、ひたひたとやってくる嫌な冷たさ。
『―――絶対、何かあったに違いないよアツさん』
つい先ほど耳にした遠山の声が頭の中に蘇り、酷い胸騒ぎに襲われる。
どうしたんだ。何があったって言うんだ。
伊藤は通話ボタンを押す事を躊躇した。遠山と話していた内容を思い出し、
わけの解らない嫌な予感を覚える。一体何が起こっているのか―――

不気味なものでも見るような目で、伊藤はディスプレイを暫く凝視し続けた。

【残り39人】

214 :代打名無し@実況は実況板で:04/12/04 07:33:53 ID:WOSO7H30
>542さん
中継ぎ課キター(゚∀゚≡(゚∀゚≡゚∀゚)≡゚∀゚)
課長に天然入ってるところやカンナ八号線の着メロとかツボを抑えてる

215 :代打名無し@実況は実況板で:04/12/04 10:35:32 ID:IHn8fdEH
age

216 :代打名無し@実況は実況板で:04/12/04 12:01:39 ID:NDZr8NI/
課長&係長キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!
君の瞳に恋してるのとこで「うおっ、課長!?」ってびびった。
うまいなあ。

217 :代打名無し@実況は実況板で:04/12/04 13:37:30 ID:mu04lrLc
続きが激しく木になる
なんか暗黒時代思い出しちゃって涙出てきた・・・・
課長遠山葛西ありがとう・・・

218 :328 ◆U/eDuwct8o :04/12/04 21:30:30 ID:M5BEDsoq
>>161より

岡田は、一人で壬午園球場を歩いていた。
ふと、一本の樹の前で足を止め、口を開いた。
「藤川か」
「はい」
すると、その樹の陰から藤川がまるで忍者のように姿を現した。
「何の用や」
「例の実験体の件ですが…」
「あー、復活したんやったな、確か」
真面目な話をしているというのに、間の抜けた口調で岡田は言った。
「ええ。その最後の一人ですが、行く先々で殺戮を繰り返しています」
「あー、そやな。アイツも今まで出番ナシやったわけやし、うずくんやろ」
「そのようですね。ずい分な暴れぶりでしたよ」
「奴が動き出したとなるとやっかいや。もう止められんのとちゃうか」
岡田がそう言うと、藤川は口元に手をおさえ、クスクスと笑った。
「いえ、それがですね…」

219 :328 ◆U/eDuwct8o :04/12/04 21:30:46 ID:M5BEDsoq

「? なんや、どうしたんや?」
「どうやら、奴は大きな痛手を負ったようです」
「なんやて…?」
藤川の言葉に岡田は思わず、うまそうにかじっていたスルメイカを地に落とした。
「久慈との対戦で、返り討ちに遭った、ってところですかね」
「久慈? 久慈ならさっき死んだやろ」
訝りながら岡田が聞く。
「ええ、僕も少々驚きました。あんな行動に出るなんて…」
「奴はどうなったんや、死んだんか?」
「わかりません。ですが、深手を負ったのは確かでしょう」
「ああ、ほんと」
最強の兵器と謳われた者たちが立て続けに退いたのを知って、岡田は思わず苦笑したが、内心では密かにほくそ笑んだ。
複製人間どもは確かに便利かも知れないが、この岡田にさえ害を及ぼす危険性のある、諸刃の剣だ。
もし彼らに太刀打ちする術がないのならば、自分の立場が危うくなろうものだが、この体たらくならばでかい顔はさせん。
(始末するにこしたことはないやろ…)
重傷だというのならば、バースにも、奴にさえも勝てる。オレが倒す。
「グフフ、エエとこどりよ。要は勝てばええんよ」

岡田はもう一度、にやりと笑った。

220 :328 ◆U/eDuwct8o :04/12/04 21:31:35 ID:M5BEDsoq
“その瞬間”は唐突に訪れた。

背高草の奥で、思わぬ呼び声がかかり、振り返れば奴がいた。
この地域は、連日の濃霧によって高湿度が保たれており、シダや菌糸がよく育っていた。
茸の上には新しい茸がひょっこりと姿を現した。やがてその上にも新しい茸が出てくることだろう。

そんな、幻想的で…すこし寂しい場所の一角で。
二人は出逢った。

「矢野…か…?」
突然の邂逅に、藪はその眼を丸くする。
「ちょっとの間やったけど、随分久しぶりに感じるなぁ」
特に驚いた様子もなく、矢野は屈託なく笑った。
意識とは無関係に、互いの頬が緩んだ。
「大層な物言いだな。簡単に死ぬかよ」
藪と矢野は、互いの肩を叩きあい、がっしりと握手を交わした。

「金本さん、赤星」
野口は、金本と赤星の居るほうに向かい、声をかける。
「おお、野口。元気にしてたか」
「無事みたいで何よりです」
「ああ、お互いな」

221 :328 ◆U/eDuwct8o :04/12/04 21:47:38 ID:M5BEDsoq
挨拶もそこそこに、合流した5人の選手たちはこれからのことについて話し始めた。

「矢野よ」
最初に口を開いたのは藪だ。
「赤星と金本には言ったが、俺はここを出て行くつもりだ。お前はどうする?」
「な、なんだってー!?」
これに驚いたのは、矢野ではなく野口だ。

「どういうことだ藪!」
「なに怒ってんだよ、野口…」
憤る野口とは対照的に、冷静な口調で藪は言った。
「一人で去るつもりか!?」
「いや、矢野と一緒に行くつもりだ」
「オレと…?」
「逃げるのか? 他の仲間を置き去りにするつもりか!?」
「好きでやってる殺し合いだ。邪魔してやるほど野暮じゃないさ」
その言葉に、野口は思わず拳を握り締めた。
上目遣いに藪を睨み、低い声で言う。
「藪、お前…!」
「まぁ落ち着けよ、野口」
金本が、野口の肩を数回叩く。
「金本さん…でも…」
「出て行きたいって言ってるんだろ、行かせてやるべきじゃないか。二人の問題だ、黙って見てろよ」
「二人…?」
興奮が醒めた野口は、訝る顔で聞き返した。

222 :328 ◆U/eDuwct8o :04/12/04 21:48:06 ID:M5BEDsoq
「ふむ…愉快な話やな。それで、ここを出てどうするつもりなんや?」
話が切れたタイミングで、それまで黙っていた矢野が口を開いた。
視線をすこし上にずらして、藪は口を大きく開いた。

「野球をしに行くんだよ」
すっ、と藪は右手を挙げる。

「――よし、乗った!」
矢野はその手を勢い良く叩く。
パァァン、と心地よい音が響いた。

その後、二人はもう一度がっしりと握手を交わした。


223 :328 ◆U/eDuwct8o :04/12/04 21:49:27 ID:M5BEDsoq
ども。

テスト期間だったんで暫く空けてました。
これからはちょこちょこ書いていきたいです

224 :代打名無し@実況は実況板で:04/12/05 11:52:26 ID:qb1OsS3l
>>223
乙です
頑張ってください
あげときます

225 :代打名無し@実況は実況板で:04/12/05 14:56:12 ID:6vZ4RmcE
藪…そろそろ佳境かな?

乙です

226 :代打名無し@実況は実況板で:04/12/05 21:04:44 ID:AFs+kKCz
いつも乙です!
テスト…大変ですね、これからも忙しいでしょうが
がんばってください!

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